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創始者 大坪 久泰

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2018.09.25

英語教育改革(その3)

 前回は鳥飼玖美子氏の著書「英語教育の危機」の大半に記述されている文科省の英語教育改革の諸施策、英語教育についての誤った世論を鳥飼氏が批判していることを紹介しました。しかし、この著書の最後の20ページには「これからの英語教育への試案」が述べてあります。以下に試案の概要を紹介しますが、この案は本学国際教養学部が多くの批判を受けながらも1994年開学時から実行し、徐々に改善を加えながら20数年にわたって実践している教育です。鳥飼氏はどの教育段階でこの教育法を取り入れるかは提案していませんが、私は本学のように大学教育に適用するのが妥当で、高校までは文法、訳読、口語表現(又は日常的に使う言葉)、音声(発声法)などの基礎教育に徹すべきだと考えます。それはともかく、鳥飼氏の試案の概要を以下に述べることにします。

 グローバル人材育成をしなければならないことには誰も異論はない。そうすると、国際共通語として英語を選択するのは当然ということになる。英語という言語を教えるのであるから、英語圏の文化を紹介しないわけにはいかないが、一歩踏み出して、共通語としての英語による異文化コミュニケーションの指導を行うにはヨーロッパの複言語主義が参考になる。複言語主義とは母語以外に少なくとも二つの言語を学び、個人の中で複数の言語を共在させ関連づけることで、豊かなコミュニケーション能力を培うことである。「多様な言語と文化の豊かな遺産は価値のある共通資源である」という哲学で、母語以外に二つの言語を学ぶ目的は「相互理解を可能にし、平和な世界を目指す」ことにあるというヨーロッパの理想である。個々の言語にはそれぞれ独自の文化と世界観がある。だから外国語を学ぶということは「異文化への窓」を手に入れることを意味する。外国語をコミュニケーションの障壁と考えるのではなく、多様性を認識することが肝要な点である。母語を含め複数の言語を相互に関連させて学ぶ複言語主義の理念をもとに英語教育を行うことで、言語や文化の多様性をつなぐ異文化コミュニケーションを学生に体得させるのである。

 具体的には、複言語主義が目指す多面的思考と自律性を培う指導法として、「内容と言語統合学習」(CLIL)の活用と「協働学習」の導入が考えられる。複言語主義の原理を生かす具体的な指導法として提案されているのが「内容と言語統合学習」(Content and Language Integrated Learning)と呼ばれる学習法である。(この学習法は本学国際教養学部が20数年前に開学時から採用している学習法そのものです)。

 1980年代になって、主として北米の外国語教育で試みられたのが、CBT(Content-Based Teaching)又はCBI(Content-Based Instruction)で日本語では「内容中心」叉は「内容重視」の指導法と呼ばれている(本学では教科並行型と呼びましたが、鳥飼氏のように内容中心とした方が良いでしょう)。

 「内容中心の指導法」では「専門教科を学ぶために外国語を勉強する」、つまり内容の理解が主であるが、「内容と言語統合学習」では外国語を「使いながら学び、学びながら使う」ことが基本である。「内容」と「言語」が同じ比重を有し、言語学習と内容学習の両方を学習の目的とする。

 「内容中心の指導法」では「専門教科などを学ぶために外国語を勉強する」、つまり内容の理解が主であるが、「内容と言語統合学習」では外国語を「使いながら学び、学びながら使う」ことが基本である。「内容と言語統合学習」は、「4C」と呼ばれる要素を有機的にカリキュラムとして統合するアプローチである。第一のCはcontent(学習内容)、次のCはcommunicationで言語学習の目的であり、教室内の具体的な活動でもあることから「言語学習と言語使用」を指している。三つ目のCはcognition(認知)である。内容を学ぶとは、すなわち考えることであるから批判的思考(critical thinking)に発展する。四つ目のCはculture(文化)である。文化とは1から3までのCを取り巻いて影響を与えるものであるから、context(文脈)とも考えられるし、community(共同体)とも考えられる。以上が鳥飼氏の試案です。

 鳥飼氏が提案している試案は本学国際教養学部創設にあたって、創設の中心であった私が、当時アメリカ合衆国カリフォルニア州クレアモントにあるPitzer大学の副学長であった社会心理学者Alfred Bloom博士との長時間に及ぶ対話の中で発想された教育法です。Bloom博士はのちにリベラル・アーツ教育の名門校フィラデルフィアのSwarthmore大学の学長に転出されましたが、博士の指導でPitzer大学関係者が数々の助言や指導をされました。これらは(教科)内容中心の英語学習に始まり、国際リベラル・アーツ教育をクリティカル・シンキングに基づくアクティブ・ラーニングによって行うという形にすることが、本学の創始者(Founder)、学部長候補者(Founding Dean)、教員(Founding Faculty)の考えでまとめ上げられました。本学創設に参加した教員はこの枠組みの中で、教室では総数20人以下の学生を4~5人の学生グループに分けて学習する協働学習体制を決めて実行に移しました。しかし、創設時はともかく、入学してくる学生の英語力が想定外に低く、授業の中で学生が発言しないことに困らされるなど、授業の実施に教員は多大の苦労をしましたが、工夫を重ねて期待以上の教育成果を上げるようになりました。異文化理解という点では、教員の出自が全世界に及ぶ多彩さであることが大きく貢献してきたと自己評価しています。教員の雇用形態が再任可能な任期付きの契約雇用であるために、教員の平均年齢が若く、個人主義が徹底していて、教育法に限らず、すべてにおいて教授会の議論は極めて活発で、活気のある国際的な教育環境が出来上がっていました。永らく本学の教育法は世間には理解され難かったのですが、最近では理解者が増えてきています。ヨーロッパの「内容と言語統合学習」とは独立に発展していった教育法ですが、一致しているのは大変喜ばしいことです。

 このような教育ができるのは、思い切った新しい教育法を従来のしがらみに煩わされないで採りいれることができる新しい小規模大学だからです。本学国際教養学部が備えている特色のある教育環境は、他大学ではその制度を容易に取り入れることはできないでしょう。

 卒業生の一人は本学での体験について、「見たことのない景色を見て、見たことのない自分に出会った」と述懐しています。思ってもみなかったような想定以上の本学での貴重な体験をこのように表現しているものと思われます。本学ホームページのキャッチコピー(惹句)はこれを借用しているのです。